加工食品 vs 自然食品 : 愛犬の身体が本当に求めているもの

健康 & 栄養

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「うちの子にはもっと良いごはんをあげたい」
「健康で長生きして欲しい」
そう思ったときに、生食のような自然食品を検討する方は少なくありません。

自然食品はドッグフードのような加工食品とは異なり、添加物を避けることができるナチュラルな選択肢です。犬のからだにやさしく、より安全に感じられるので、試してみたい方は多いでしょう。

ですが、獣医師や専門家は市販のドッグフードを推奨する傾向があります。愛犬にとって本当に良い食事はどっち?と迷う飼い主さんのために、加工食品と自然食品のメリットやデメリットなどをわかりやすく比較しました。

大切な家族の健康を考えたごはんを選びたい方は、ぜひ参考にしてください。

犬は限りなく「肉食に近い雑食」。本当に求めている食事とは?

犬は「食肉目イヌ科」に分類される、「限りなく肉食に近い雑食」の動物です。そのため、愛犬が本当に求めているのは、草食動物の生の肉や内臓をメインとした食事です。

祖先であるオオカミがそうであったように、犬も長い間生肉を食べて生きていました。しかし人間と暮らす過程で食生活が多様化し、体内構造にも変化があらわれ、雑食動物の特徴を合わせ持つようになります。

例えば、骨や植物をすり潰すのに適した大臼歯があることや、炭水化物も消化できるからだであること、消化管全体に対する小腸の割合などがそうです。※

このような特徴については、国際的な獣医栄養学の基準書「NRC(2006, Nutrient Requirements of Dogs and Cats)」や、イギリスの動物栄養学書である「McDonald et al. 2011 Animal Nutrition」などでも解説されています。

つまり、犬の食性に配慮するためには、生肉のような動物性の食材をメインとしつつ、野菜や果物といった植物性の食材もバランスよく与える必要があると言えるでしょう。

そう考えたときに、市販のドライフードは犬が本来求める食事でしょうか?ドライフードは、肉類よりも炭水化物を多量に配合したものが多いのが現実です。

もちろん、炭水化物を摂取することでからだの構成に必要なタンパク質を余分に使わずに済むというメリットはあります。また、私たち飼い主が望む、手頃さや手軽さといった魅力も兼ね備えているため、ドライフードが一概に悪いとは言いません。

ただ、栄養バランス面や加熱加工されていることなどを思うと、犬という動物が本来食べてきた食事とは異なります。

多くの犬たちは、ドライフードに満足しているように見えても、生肉がたっぷり入った食事を目にしたときに、本来の食欲が呼び覚まされるのではないでしょうか。

加工食品と自然食品の違い

ドライフードのような加熱加工された食品と、生食のような自然食品にはどのような違いがあるのか詳しくみていきましょう。

以下は、加工食品であるドライフードと自然食品であるアニーズ・パントリーを比較したものです。あくまで一例ではありますが、参考にしてください。

加工食品と自然食品には様々な違いがありますが、特に大きな違いは水分量です。忘れがちですが「水」も重要な栄養素。犬も人と同じように、からだの約60%が水分でできています。

ドライフードは水と共に与えることで健康を維持できる食事ですが、生食は自然と水分を多く含むため、より犬のからだが喜ぶ食事と言えるでしょう。

わんちゃんの中には、水を積極的に飲まない子もいるので、食事で水分補給ができるのはうれしいですよね。

では、水分をほとんど含まない加工食品にメリットはないのかというと、必ずしもそうではありません。加工食品と自然食品、それぞれのメリットとデメリットを知り、愛犬の体調や状況に合わせてうまく使い分けていくのがベストです。

加工食品(ドライフード)を与えるメリットとデメリット

加工食品であるドライフードは生食のような「犬本来の食事」とは言えませんが、ドライフードならではのメリットもあります。

メリットは手軽さと栄養バランス

ドライフードは水分量が少ないうえに、人工や天然の保存料が使用されるので長期保存が可能です。また、製造時に栄養サプリメントが添加されているフードが多く、栄養バランスが常に一定に保たれているところもポイントでしょう。

子犬用や老犬用、体重管理用、特定の疾患に対応した栄養バランスなど、愛犬に必要な栄養素を安定的に補えます。特に病気の療養中では、獣医師の指導のもと与えることで健康をサポートできるフードも数多くあります。これは、残念ながらナチュラルな食事だけではなかなか実現しにくいため、加工食品の強みです。

また、忙しい毎日の中では、計量してお皿に出すだけでごはんの準備が完了するというのもドライフードならではのメリットと言えます。フードをお皿に盛ったあとも、袋のジッパーをしっかり閉めて涼しい場所に置いておくだけで良いのでとても手軽です。少し手をかけて小分けにして保存しておけば、酸化も防ぎやすくなるので、食品でありながら利便性にも優れています。

デメリットは品質のバラつきと添加物

一方デメリットは、種類の豊富さゆえに品質や価格にバラつきがあることが挙げられます。

価格の安さに応えた商品では、数値上は栄養バランスがとれていても、穀物を多量に配合していたりと、犬の食性に配慮しているとは言えないものが多いです。

さらには、安全な食材が使われているか判断できないものもあるため、安心して与えられるフードを探してさまよっている飼い主さんは珍しくありません。

また良質な食材を使用していても、高温で加熱加工をすると栄養素の変性や失活がみられます。それを補うために後付けされる添加物もあり、完全に無添加のドライフードはかなり数が限られているのが実情です。

ドッグフードに使われる多くの添加物は、使用量を守れば体に負担がないと証明されてはいるものの、犬の健康と添加物の関係については未だ十分に研究されているとは言えず、不安も残ります。

原材料の質や添加物などについて詳細な情報を開示している良心的なメーカーもありますが、加工の過程が見えないフードが多いことはデメリットと言えるでしょう。

自然食品(手作りや生食ドッグフード)を与えるメリットとデメリット

自然食品はメリットの多い食事ですが、取扱い方には注意が必要です。自然食品(生食)のメリットとデメリットをみていきましょう。

メリットは新鮮な美味しさと栄養価、馴染みやすさ

生食は水分を多く含み、素材本来の香りで食いつきの良さに期待が持てます。中には、「狂喜乱舞」という言葉がぴったりなくらい喜んでくれる子も。

また味の良さだけではなく、生の肉には酵素や乳酸菌などが自然に含まれ、栄養価も高いのが特徴です。素材そのものの栄養素を活かし、冷凍で保存されるため添加物も必要ありません。

さらには、犬本来の食習慣を再現しているため、栄養がからだに馴染みやすいというのもポイントです。皮膚・被毛のつややかさや、口内環境の健康維持なども望めます。

私の愛犬の場合は、満足感が違いました。食いしん坊な子ですが、生食であれば少量でも十分に満たされていたようです。食べる前の目の輝きと、食べ終わったあとに満ち足りた様子で口の周りをペロリと舐める姿は今でも目に浮かびます。

デメリットは手間とコスト

生食には栄養面での欠点は見つかりませんが、ドライフードよりも取り扱いに慎重にならなければならない点がデメリットと言えます。

例えば、袋からすぐにお皿に出して与えられるドライフードは異なり、まず前日の夜に冷凍庫から冷蔵庫へ移して解凍しておかなければなりません。また、鮮度の良いものを与えるためには、解凍後48時間以内に消費する必要があります。

すぐに使用しないぶんは再冷凍が可能ですが、それも1度までと、取扱に関する注意点が多々あるため、中には手間だと感じる方もいるはずです。

また、手間がかかるうえに、ドライフードに比べるとコストが高くつきます。生で食せる安全性の確かなフードには、どうしてもある程度のコストがかかってきてしまいます。

生食は、犬の健康に寄り添った手間もコストもかける価値のある食事だと思いますが、手軽さを求める方や価格の安さを最重要視する方にはあまり向いていないでしょう。

自然食品(生食)を選ぶと良い犬と飼い主さんの特徴

自然食品(生食)は、祖先から続く犬本来の食習慣なので、基本的にはすべてのわんちゃんにおすすめできます。

その中でも、特に生食を選んでみてほしいのは、次のようなわんちゃんや飼い主さんです。

生食は日本ではあまり馴染みがなく、一見敷居が高いように感じますが、安全性の確かな生食を選べば身構える必要はありません。

愛犬の年齢を問わずいつからでも始めることができるので、体調や性格に合わせて少量ずつトッピングするところからはじめてみてください。

ただし、病気の療養中の犬や、免疫が低下している高齢犬では体質に合わない可能性もあります。かかりつけの獣医師に相談のうえトライするようにしましょう。

加工食品と自然食品。迷ったときは愛犬に聞いてみよう

「このまま今のごはんをあげていて良いのかな?」と迷ったときは、犬本来の食性に合う自然食品(生食)を試してみてください。その選択が正解だったかどうかは、生食を目の前にした愛犬が教えてくれるはず。

生食は新鮮な素材そのものの旨味が味わえるだけではなく、栄養も豊富です。愛犬のうんちの状態や毛並みなどから、良さを判断してみてくださいね。

ただし、生食は保存管理を適切に取り扱わないとメリットを得られません。愛犬のために手間を惜しまず、こころもからだも喜ぶごはんを与えましょう。

※参考一覧:NRC(2006, Nutrient Requirements of Dogs and Cats)、McDonald et al. 2011 Animal Nutrition